チビとの思い出 〜縄張り

以前、我が家には「チビ」と言う名の雑種の犬がいた。
私が小学5年生の時に貰ってきてから十数年間、我が家の前を陣取っていた彼は、飼い主に似てなかなか出来の悪い?犬で、いろいろな思い出を残してくれた。
もともと飼い主である私自体出来が悪い故、そんな頻繁に散歩に連れていってやらなかったのだが、そのせいかたまの散歩は彼にとって大興奮の大イベントの趣だった。

そんな、ある散歩の時に起こった出来事である。

いつも散歩の時は、家の前の道を右に進み、最初の角を右に折れ、そのまま土手を登りきり、土手の向こう側にある河川敷の公園でお互いくたくたになるまで走り回り、同じコースで帰ってくるというパターンになっていた。
たまの散歩のくせに、その時出来の悪い飼い主は、なに思ったか「たまには違ったコースがいいかな?」なんて考えたものだからさぁ大変。

いつも右に折れる最初の角を左側へ進もうとした、その時だった!

ん?

引いてる綱がピーンと、まるで鉄の棒の如く突っ張った。

おや?

と思いチビを見ると、4本の足に前身全霊の力を込めて抵抗をしていたのだ。

なんだよ、こっちだよ!

と引っ張るも彼の、名前ほど小さくない体躯を駆使した抵抗はすざまじく、暫し引っ張りあいが続いた。
このまま引っ張ると首輪か首自体が抜ける、なんて思うほど引っ張っても駄目だったので、その出来の悪い飼い主は作戦変更を考えた。
私が走ると、そのあとを走ってくるチビの特性?を考えて、いつもの右に折れる方向へ走り出した。
いつもの方向だったので今度は喜んで走りついてきた。そしてその直後同じ勢いのまま、急に踵を返した。
勢いがついていたせいか、出来の悪かったせいかわからないが、その勢いのまま、チビはあれほど嫌がっていた左に折れる方向へ走り出すはめになった。

しめしめ。

と思ったのも束の間、なぜチビがあれほどこちらの方向へ行きたがらなかったかすぐに解った。
その通りに飼われている犬という犬が一斉に、通りを走る私たちに向けて、暴れる獣のそれ風に夥しく吠えまくったのだ。
ある犬は繋いである鎖を引っこ抜かんばかりに、またある犬は人間の高さくらいある塀を飛び越えんばかりに、猛烈な勢いで・・・

こりゃ、恐ろしい。

と、ようやく出来の悪い飼い主である私は気が付き、チビをつれて走るスピードをさらに上げて通りをひと回りして、なんとかいつものルートへたどり着いたのだった。

犬の電信柱などへのマーキングと言うものがあります。
これは自分の縄張りの宣言のようなもので、他者はこの中ででかい顔をするなよ、というような意味があるようです。

そんな中にでかい顔してどうどうと走っていりゃあ、そりゃあねぇ・・・改めて、行ったことのないところや他の縄張りへ入ってはいけないんだなぁと思い、ふと傍らのチビを見ると、彼もこっちを見ていて、お互い目が合いました。
その時の彼の表情は、私に対しこう言っているように感じられました。

「僕のせいじゃないよ」

そうです、私のせいです。ゴメンナサイ



もどる

inserted by FC2 system