昼の銀河

その日は、とても寒い風の吹く晴れた日だった。
そんな何年か前の12月上旬のある日に、僕と同僚のOは社用車のタイヤ交換をするはめになった。
僕が言い付けられたのかOが言い付けられたのか、今となっては思い出せないが、とにかく二人で素早くやってしまうことにした。
以前勤めていた会社では、そんな感じで上司にタイヤ交換を言い付けられて、気分悪い思いをしながらタイヤ交換をするものが多々いた。
僕達もそんな一組だった。
「やつがやりゃあいいじゃねぇかよ、なぁ!」
「おう!」
などと、ぶつぶつ文句をいいながら、僕らは冬用のタイヤがある車庫の前に社用車のワゴンを移動させた。
「自分の車もまだ換えてねぇのに、なぁ!」
「おう!」
などと、更にぶつぶつ文句をいいながら、しかしとても寒い風吹く中だったので、すぐにタイヤ交換を始めた。
片方がナットをゆるめて、片方がジャッキで車体を上げ、片方がタイヤを車庫から持ってきて、
片方がタイヤを外し車庫に戻し、片方が冬用のタイヤを取り付け、片方がジャッキを下ろす。
こんな具合で二人で効率良く交換したので、一人でする半分以下の時間で作業は終わろうとしていた。

そんな作業終盤に事件は起こった。

最後のタイヤを取り付けるべく、僕はレンチでナットを締め付けていた。
下方向に向って両手でレンチに体重をかけた、その時だった。

「!!!!!!!!!!」

寒い風吹く中とはいえ、晴れた昼間。
それなのに僕の眼前には、銀河のような星の数々が瞬いた。

「痛って〜」

全体重をかけた時、ナットからレンチがはずれ僕は頭から車に突っ込んでしまったのだ。
顔をおさえて呻く僕を最初は心配していたOだったが、徐々に青くなっていく僕の右瞼を見て、にやにやしっぱなしだった。
その日から腫れがひくまで瞼が気になってしょうがなかったけど、幸いにO以外にはあまり知られずにすんだ。
しかし、全体重をかけただけあって痛かった・・・

そんな出来事から数日経ったある日、車両責任者であるセクハラ腐れど外道の他部署の部長Kが、僕らの上司と社用車のワゴンについてなにやら話しているのが聞こえた。
聞き耳をたてると、どうやらワゴンに問題があるらしく、それについて聞いているようだった。
僕らの上司は、「いや〜わかりませんねぇ」などと言って、Kは不満そうな顔で自分の部署に戻っていった。

事の顛末を見ていた僕はOを見た。するとOも僕を見ていた。
二人で目を見合わせ、にやにやしていた。

だって、その車両責任者Kの気分を悪くしたワゴンの問題、いや正確に言うとワゴンの陥没は、僕とOしか知らないもの。
それは僕の瞼に負傷を負わせたあの日のタイヤ交換時に出来た陥没で、まぁわかりやすく言うと僕の頭突き?によって出来たへこみなのだから。

しかし、痛かった・・・

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