鼻歌の男

ある秋の日のことだった。
私の好きな映画のDVDが期間限定価格980円!で売られていることを思い出し、訪れていた新潟市の紀伊国屋書店のDVD売り場を覗いてみた。
膨大な書店のわきにある小さいDVD売り場へ入り、物色し、だんだんと奥へ向って、一番奥の期間限定価格のDVDが多い場所へ行った時のことだった。
そこには一人の客がいた。
年齢はよくわからないが多分40〜50代くらい、白髪が混じった頭髪は角刈りが上方へのびてリーゼントっぽくなった感じの珍しい髪型。
服装はおっさんっぽい若者?若者風なおっさん?まぁ、別に可もなく不可もない感じ。それに耳大サイズのヘッドフォンで音楽を聴きながら、その音楽にあわせて小さく鼻歌を歌い、体を小さく動かしていた。
そのくせ焦点のあっている視線は肩にでもぶつかろうものなら因縁の一つや二つふっかけられそうなチンピラ的な険しい目つき、そんな感じの男だった。
正直少し邪魔だったが、気にせずその近辺を物色していた時のことだった!
その彼の鼻歌に急に歌詞がつき始めたのだった。しかもその歌詞の内容が「♪邪魔なんだよコラ♪」「♪どっかいけよ♪」「♪チョロチョロしてんじゃねえよ♪」と、どう考えてもその彼が作詞した迷作は私に向けられてのものだった。
「こりゃあ、関わらないに越したこたぁない」と思い、その場を立ち去ることにした。
立ち去りながら、後ろを振り返ると、男は相変わらず鼻歌ダンシングを続けていた。
店内の別の方を見ると、女性客二人が男をチラチラ見ていたが、きっと彼女らも私同様の目にあったのだろう。
そこではそんな感じだったので、私は別のお店を覗いたりしていたが、そのうちなんだかだんだんと腹が立ってきた。
別になんにも悪くない私がなんで気を使って立ち去らなきゃいけないのかと!
後ろからなんか投げ付けてやろうか?それとも万引き犯とかの誤報を流してやるか?やっぱりどうどうとなんかいってやるか?
でも、相手はヤバい感じだったし、いきなり殴られたり刺されでもしたら・・・考え過ぎ?
その後、暫くしてからその売り場に訪れたら男はいなくなっていたので、じっくりとDVDを物色、肝心のDVDは店頭になかったので残念ながらその日は諦めることにした。
そして、立ち去ろうとして、書店の方を覗いたら、いました!男が立ち読みをしながら。
もちろん男の左右には混んでいる店内にもかかわらずやはり誰もいませんでした。
やれやれ、迷惑な奴がいるなぁ、と思いながら帰り始めた時、あることに気がつき、やはりヤバい男だったんだと再確認した。
私に向けられて口ずさんだ彼の歌の一節にこんなものがあった。
「♪(DVDを出し入れする音に対し)♪ガチャガチャうるせえんだよ!♪」と・・・ってことはヘッドフォンは・・・

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