僕の菊は?
多分、中学の1年か2年の頃の話。
当然もう随分前のことだから、かなり朧な記憶の欠片しか残っていないけど、
それでも決して忘れることのないこんな出来事があった。
それは授業の一貫だかなんだかわからないけど、
クラス全員でそれぞれ「菊」を鉢植えで育てた時のこと。
何故だか僕の鉢に植えた菊だけ、驚くくらいの大輪の花を咲かせた。
まわりのクラスメイトの鉢を見ると、そこにはそれぞれの、
それでもせいぜい握りこぶし大くらいの花が中央上部にあるだけ。
それなのに僕の鉢には、まるで菊祭りにあるような、直径20センチまでにはならないけど、
それでも15センチ以上はあるような見事な花を咲かせた。
そんなに人一倍大きい花をつけた鉢は、友人達の冷やかしのせいもあって、なんだかとても気恥ずかしいものだったけど、
それでも、家に持って帰ったら皆驚くかな?とか、
どこかに飾られるかな?なんて思ってもいた。
そんな思いでいた時、ある教師が僕の見事なその菊を見てこう言った。
「おい、へどろん、その菊ちょっと貸してくれ。」
いったい何かな?って思うも、教師にそんなこと言われたら、
大体の人がその時の僕と同じく「はぁ、いいですよ・・・」と言うだろう。
鉢を重そうに自宅まで運ぶ友人と帰宅しながら、
僕が鉢を持ち帰るのは明日か明後日かな?と、
その先生の台詞「〜ちょっと貸してくれ。」から、そんな風に推測していた。
しかし、翌日になっても、その次の日になっても、
その先生からなんの音沙汰もなかった。
そうなってくると、僕の菊、大丈夫かな?菊ってどれくらい咲いてるのかな?
と、だんだん不安になってきた。
そんな日々が続き、クラスメイト全員がとっくに菊を持ち帰り、
もう誰も菊のことなんか忘れかけていた、確か1週間?10日?くらい経ったある日、
その先生が廊下にいたので「先生、僕の菊は?」と言った。
すると、その先生は驚いた顔をして、「おお・・・そうだったな・・・持ってくるよ」と言った。
そして、鉢を持ってきた。
しかしそこにあったのは花なんかはなく、鉢の中に無惨にも1本の茎が生えているだけの代物だった。
今思えばそいつが宣った「〜ちょっと貸してくれ。」っていうのは、
多分にちょっと職員室かどっかにしばらく飾るから提供せよ的な意味合いだったのだろう。
しかしいったいなんだったんだろう。別に好きで育てた菊じゃないけど、
それでもそんな教師の為に、いくら偶然とはいえ大輪の花を咲かせた訳じゃなかったのに・・・
まぁ、そんなこと言っても菊に今もその時も深い思い入れはないんだけど、
それでも、結局親兄弟に見せることもなく、その茎だけになった鉢植えを、
「ちぇ、ちょっと貸してくれでこれかよ・・・」と肉体的だけじゃなく、
気分的にもかなり重い思いをしながら持ち帰ったことをよく覚えている。
そんな出来事がどうにも忘れることが出来ない、
僕の心に根付いている、先生なんて呼ばれる種類の人間に、
ホントに先生と呼ばれるに相応しい人物なんて何パーセントいるのだろう?
なんて思うような、出来事の一つだった・・・
一つだった・・・なので、別のエピソードは後ほどにでも♪
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