最高のおやつ

遠い昔の、秋の日の下校時のことである。

小学生だった僕とO君は、田んぼに挟まれた畦道を歩いていた。
秋といってもまだまだ蒸し暑い空気と日差しの中、両脇の田んぼでは当時稲刈り後に行なわれていた「野焼き」の真っ最中、おまけに畦道にも「もみ殻」が燃やされている、そんな中を僕らは特に気にせず歩いていた。
そんな時、となりのO君がこう言った。
「あれなんだ?」
その指さす燃えているもみ殻の山を見ると、燃えた灰の中に小さい白いものが確認できた。
二人で畦道の途中にしゃがみ込んでその小さい白いものに顔を近付けた。
それは稲刈り時に出たであろう稲穂の一部が、燃えたもみ殻の熱によりポップコーンよろしく白く弾けたものだった。
さっと取り上げたO君は手のひらにその小さい一粒をのせ、灰を払った。
間違いなく米粒が弾け、小さいポップコーン、もしくはせんべい状になったものだった。
「じゃあ、食べるぞ」と言い、O君は口に放り込んだ。
すると、目を見開いて、興奮した表情で僕を見ながらこう声を上げた。「うめーよ、これ!」
そんな美味しいものとなればもちろん僕も食べたいし、O君ももっと食べたいから、僕らはその辺の田んぼや畦道に落ちている稲穂を探し始めた。
しばらくして、二人で集めた稲穂数本を燃えているもみ殻の山に焼べた。
ワクワクした気持ちで畦道にしゃがみ込みながら、その煙り出る薄かったり濃かったりする灰色の山を見つめていた。
しかし、しばらくしても変化の兆しは現れない。
お互い不安になり、「だめなのかなぁ」とつぶやいた、そんな時だった。
「あっ!」二人同時に声を上げ見つめあい、笑った。
『ぽん!ぽ〜ん!』と数粒が白く花開いたのだ。
さらに数粒弾け、僕らの想像以上に景気よく米粒は弾けた。
収穫を二人で集め、灰を払い、食べた。
青空と高い雲の下で、二人は感に堪えない表情でその不意に現れた美味しいおやつを、一粒一粒、または数粒まとめて食べ続けた。
そんな美味し過ぎるおやつだったのに、なくなってしばらくすると、O君がこんなことを言った。
「もっと美味しくならないかなぁ・・・」
その時、僕は(何贅沢言ってんだよ、充分美味しかっただろ!)と思ったが、黙ってO君と別れ家路についた。

次の日の下校時も、僕らは燃えているもみ殻の山と落ちている稲穂を探し、前日同様畦道の途中にしゃがみ込み暫し待っていた。
やっぱりその日もすぐには弾けてくれず、まだなのかよ〜って思ったそんな時に『ぽん!』と弾け始めた。
そして二人で収穫を集め、灰を払い、さぁ食べよう!って思った、その時にO君が「ちょっと待って!」といいランドセルを下ろし、中から白い小さい紙の包みを取り出した。
「これをかけて食べようぜ」と言ってその紙で包まれたものを僕に見せた。
それはO君が家から持ってきた『塩』だった。
「おー!すげー!」と僕は、僕同様のぼんくらだった?O君の意外なほどの素敵なアイディアに喜びの声を上げた。
更に美味しくなった僕ら二人だけの最高のおやつを食べながら、最高な気分で家路についた。

あれから何年もの時を経て、僕らはいろいろな美味しいものと出逢ったし、これからも出逢うことだろう。
しかし、あの秋の青空と高い雲の下で、二人で食べたあのおやつを超えるようなものとはなかなか出逢えないのではないのだろうか?
多分、O君も同じように感じているのではと思うが・・・どうだろうか?





今は燃やしちゃダメなのに・・・

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