あっという間の上京

高校生活も終わりが見えてきたあの頃、本来なら僕らは 来るべき新生活に向けて、または残りわずかな学生生活を満喫すべく、若い血潮を燃やし 時間の許される限り学生ならではの自由を思いっきり過ごすところを、残念ながら 結露した窓の雫が垂れるのを暖房の効いた部屋から見つめるように、温々とぼんやり過ごしていた。
無理もないことなんだろう。だって田舎の偏差値の低い高校生の卒業後の進路なんて、学生の憧れとはほど遠い就職先だったり、三流四流の学校にすぎないのだから。
そんな中で皆同様ぼんやりと過ごしていた僕だったが、あることを忘れていたのに気が付いた。
その三流四流の学校に進学が決まっていたのに関わらず、下宿先について何も考えていなかったのだ。
こりゃまずい、と中学高校ともに一緒で、おまけに次の進学先までも一緒となる友人のNに訪ねると、Nは既に下宿先のアパートを決めていた。
それで焦り始めた僕もようやくアパート探しを開始することにした。
アパート探しといっても、普通に不動産屋をまわるなんてことではなく、Nが決めたように進学先の学校で紹介してもらう、学校紹介による下宿決めにすることにした。
何がいいって、その学校紹介だとほとんど敷金礼金の類いがかからない、でも、その分か学生向き故かどうか解らないけど、しょぼい下宿がほとんどだった・・・まぁ貧乏学生には上等だろう。
そうと決めた僕は、ある日曜日、進学先のほうへ下宿を紹介してもらおうと上京することにした。
上越新幹線、山手線を経て、学生生活においてお世話になる小田急線に乗るべく、新宿駅に到着した。
その新宿駅に到着してようやく気付いたのだけれど、その日関東地方は記録的な大雪に見舞われていて、新宿駅到着時にはなんと小田急線が不通になっていたのだ。
おまけに駅構内の放送に耳を傾けると、他の路線も軒並み不通になっていた。
それでも、雪の多いところ出身のこのぼんくら、しばらくすりゃあ動き出すんじゃねえの?なんて、大都会の巨大駅の中でひとり余裕でいた。
駅の外を見るとそこは田舎とは違い、車や人などがせわしなく動くその1枚上に斜めの白い膜がかかったような、全体的に薄いグレーのような雪降る世界、そんな都会の一風景をぼんやりと見ていた。
しかし、しばらくしてその余裕を打ち砕く放送が流れた。それは他の路線はおろかついには山手線までも不通になってしまったと言うのだ。
これで、(僕の覚えている限り)動いているのは新幹線と地下鉄のみ。
こりゃあ下宿先を紹介してもらいに行くなんて言ってられない、下手すりゃ帰れなくなるんじゃないのかって状態にまでなってしまった。
そこで、自宅に電話し状況を説明、すると父がしかたないので下宿先云々は後日にして、なんとか帰ってこいとのこと。
数えるほどしか東京に来たことのないこの田舎者が、しかも生まれて始めての地下鉄・・・あのややこしい奴・・・でも事態はそんなことを言っていられない。もたもたして地下鉄や新幹線まで動かなくなったらなんて考えたら・・・
勇気を出して、頭をフル回転させて、地下鉄の路線図に見入って、今考えるとどう乗り継いで新宿駅から上野駅まで地下鉄でたどり着いたのか思い出せないが、無事到着。上越新幹線は普通通り動いていたのでなんとか、しかし下宿先については収穫なしという残念な状態で新幹線に乗り込んだのだ。
車窓から、なおも横殴りに降り続ける雪降る景色を眺めながら、親からもらった電車代が無駄になった、と思ったことは覚えている。
今思えば、電車代もさることながら、このたまたま上京した際に見舞われた悪天候によるさえない結果、それはこれから始まろうとしていたさえない学生生活を予見するようなものだったのだろうか?なんて考えたりもするが・・・まさかね。


結局、1時間弱で帰宅・・・


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