ミネラルウォーター狂想曲?

バブル真っ只中のあの頃、黒いスリムのジーンズなどをはいていた僕らは、ポロシャツの襟たてやセカンドバッグなども小脇に持たず(若干いたかも?)、ましてやボディコン、ジュリアナなどのバブリーなものとはおよそ縁遠い存在だった。
そんな僕らだったのに?思い出すと、ある時、原宿は表参道を歩いていた。(別にいいか)
理由は今となっては思い出せないが、とにかく僕ら5〜6名はこともあろうか!洒落た、外人が読書でもしてそうな?オープンテラスのある、一軒のカフェに入って一服することになった。
もちろん田舎者の私も皆のうしろから、どきどきした心を隠しながら、その欅並木にマッチした洒落たカフェに入っていった。
さすがにオープンテラスのほうではなく、店内奥の方へ席を陣取り、皆注文すべくメニューを見つめた。
その時、ひとりがこう言った。「俺、金ないから一番安いのにする」
と同時に一同メニューの金額部分を端に向って目で追った。
そのメニューの端にあった、一番安いものはこう書かれていた。

「ヴィッテル」

当時はミネラルウォーターはおろか、緑茶などのペットボトル製品普及以前の頃で、ようやくペットボトル製品では烏龍茶かジュース類が普及し始めたそんな頃。
誰一人としてその飲み物、いや飲み物であろうと思しきものの名前を知るものはいなかった。
「びってる〜?」「何それ?」「飲み物か?」など様々な言葉が飛び交ったが、彼はそのまま、恐らく若干の不安や期待感など抱きながら、「ヴィッテル」なるものを注文した。
私は皆の注文に続いて、多分コーヒーかコーラという無難なもののどちらかを頼んだと思う。(ツマンネ)

それから待つこと暫し・・・来ました!謎の飲み物!?「ヴィッテル」が!とりあえず液体だったので、飲み物ということはすぐに解った。
洒落た店らしく、繊細な形状をしたグラスに入ったその無色透明な液体を、皆一斉に見つめて、一呼吸置いてから様々な声を発した・・・「なんだこれ?」「透明か?」「水じゃね?」
そして、注文した彼は、皆のそして本人の期待を十二分に背負って?その液体を口に運んだ・・・
当然、皆一斉に、「どう?」「どんな味?」「うまい?」などと聞いたが、彼は『う〜ん・・・』とか『よく解らねぇ』とか『あまり味がしない』などと述べ、『ちょっと飲んでみる?』と言い、グラスを差し出した。
もちろん、私も皆も我先にとグラスからその液体を一口ずつ頂戴した。
当然感想は同じで、「味しねぇな」というようなものや「いや、すこ〜し甘いかな?」というような的外れなものなどがほとんどだった。
結局その場は、「なにか水のようなほとんど味のしないものを頼んでしまった」という感じで終わったものと記憶している。

「ヴィッテル」はおろかミネラルウォーターすらほとんど普及していなかったあの頃だから、無理も無い話だろう。
しかし、この時のやり取りにおいて、無欲の勝利?というか、素直な心から生まれた発言?というか、そんな思いから発せられたであろう言葉が、今となっては非常に興味深く感じられてならない。

「水じゃね?」

そして、その言葉を発したのが私じゃなかったというのことがすこし残念でならない・・・だって、「いや、すこ〜し甘いかな?」、って・・・ねぇ。

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