ざんまいは・・・
もう20年以上も前になる古い話で恐縮だけど、
以前勤めていた会社で、あるカタログを作る業務に携わっていた。
デザイナーなど、いろいろな人が携わるその業務の中では、
このへなちょこ社員の俺はもちろん一番下っ端。
だからもっぱら雑用的な作業がメインだった。
そんな業務の手初め的な作業で、
そのカタログに掲載される、膨大な数の商品リストを、
選り分けたり歯抜けを埋めたりするチェックを後輩としていた。
そんな作業中、あるリストに目がとまった。
そのリストにはこう商品名が記されていた。
「●●三味」
そして、そこにこうルビが振られいていた。
「●●ざんまい」
これは・・・と思い、後輩にそのリストを差出し、
「おい、ちょっとこれ見てよ♪」
後輩はリストを覗き込みながらこう言った。
「●●ざんまい・・・って、●●ざんみ、っすかね♪」
そう、●●ざんまいだったら、本来「●●三昧」と、
「味」ではなく、それにそっくりな「昧」と記さねばならないのに・・・
と同時に後輩はこう言った。
「それ、××課長の字ですよね?」
そう、間違いなく直属の上司である××課長の達筆な文字がリストに踊っていたのである。
仕方なく、課長に聞きに行くことになった。
「課長、このリストにある商品名ですけど・・・」
『ん?おお、どこそこ社の●●ざんまいだな』
「・・・ええ、この●●ざんまいなんですけど・・・ざんまいってこういう字なんですかね?」
『ん?おお、三(さん)に味(あじ)で三昧だろ?』
「・・・ああ、そうですよね・・・わかりました・・・」
こんな勇気のないやり取りを終え、後輩の元に戻り、
その乏しい成果を伝えた・・・
「え〜、まじっすか?」
「だって言えなくてよ・・・疑いの欠片もなくあれでざんまいなんだから・・・」
「どうするんです?この品名」
取りあえず、まだ変更するチャンスはあるから、その日はそのまま、
「●●三味」のままにした。
そして、カタログ作りの業務は着々と進行し、
カタログの文字のチェック、所謂文字校正の時がやってきた。
もちろんそこには「●●三味」という商品も載って。
上記した後輩と校正をしていると、当然の如く「●●三味」の場所になった。
当然後輩は「どうします、これ?」と言った。
仕方なく、再度××課長に聞きにいった。
「・・・課長、この「●●三味」ですけど・・・」
『おお、どうした?』
「・・・ざんまいは三(さん)に味(あじ)でざんまいなんですよね?」
『ん?そうだってこないだも言っただろ?それがどうしたんだ?』
「・・・・・・いえ、そうですよね、わかりました・・・」
この後、後輩のとこに戻り、このなんの成果も上げられなかったやり取り含め、
どうしようかといろいろ話していたけど、結局ここまで課長に確認しておいて、
そのやり取りを無視して勝手に、それが正解だろうと、俺達如きが今さら直せない、
そういう結論になり、まぁある意味課長のせいに出来るっていうのもあって、
結局そのままの「●●三味」でカタログ作りが進んで、
それから暫くしたある日、カタログは完成した。
ページをめくると当前の如く「●●三味」という商品が掲載されたままで。
もちろん、暫くすると遠くの方から「・・・ざんまいって文字・・・」
みたいな声が聞こえたが俺たちは何食わぬ顔して、へなちょこ社員らしく過ごしていた。
今なら上手い具合に言えると思うんだけど、なんせさらにへなちょこな20代の頃の話だから・・・♪
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